火力発電所

megumimaginery2006-02-06

この写真、ロンドンに向かう際、鉄道がノッテインガムを離れた辺りで撮ったもので、火力発電所である。


田園の真中に突然姿を表すので最初は何かわからなかったが、英国中部ではよく見かける。おそらくこの辺りで多産した石炭を用いた発電所なのだろうと思う。


チャタレイ夫人の恋人」で、第一次世界大戦で負傷し障害を負ったチャタレイ氏が自身の炭坑から出る石炭を発電に使って電気エネルギーに変える計画を熱っぽく語る場面がある。彼は戦争前はデカダンな芸術家気取りの地方名士で、あやしげな芸術家もどきを侍らせてはセンチメンタルな小説などをものしていたのだが、戦後男性機能を失ってからは何故か健康的でポジティヴな実業家の側面を見せはじめる。


性的満足を与えられない愛妻コニーに対しては他の男性、自分の友人達との交渉をすすめ、更にそれによって妊娠すればその子供を認知し実子として迎えるつもりをもっていたが、その相手が森番、労働者階級の男と知って激怒する。社会的なプライドを傷つけられたからだ。


この小説の中でチャタレイ氏は、産業社会 - モダニズムを象徴する。彼が生殖能力 - 豊饒性を失うことによって産業的発展を得るくだりは1920年代当時の産業発展の時代を反映しているのだろう。そして結末では自然 - 森の持つ豊饒性に愛妻を奪われるが、しかしそれによって産業化が負けるかどうかについてはここには語られていない。産業社会の矛盾と崩壊について彼が予言しているように見られるが、それは実際50年後に明らかになったもので私などは産業社会が爛熟し腐敗、崩壊しつつある時代に育っているからいささかうがった視点を持ってしまうと思われる。実際、産業社会は計り知れない恩恵を私達にもたらしたし、小説の中でコニーとメラーズが勝利した森と自然は、深刻なまでに破壊されてしまったのである。


私見だが現在この火力発電所は石油を燃料に使っていると推測する。ロンドンのテムズ川南岸にある火力発電所はその機能を終え、現在テート・モダン美術館として使用されている。